心は遺伝するのか

どうだろう。心が遺伝するのか、ぼくはブレインサイエンスは素人なのできちんとしたことは言えないけれど。
まず、ぼくらが心というものが何なのか良く分かっていないところが議論を難しくしているのだろう。何を議論してるか分かっていなければそもそも科学の土俵には載せられないから。特に遺伝学はそれがきちんとしていないと話が始まらない。エンドウの花の色が紫といえば紫だし白といえば白だからメンデルは遺伝学を始められたわけだから。
例えばこんなことがある。十数年前からネズミではかなり自由に遺伝子を一つずつこわして何が起きるか調べることが出来るようになった。遺伝子を破壊されたネズミをノックアウトマウスと言ったりする。ヒトもマウスも数万の遺伝子を持っているわけだけれど、そのうち一つを壊したら母親ネズミが子育てをしなくなった。そういう遺伝子がいくつか見つかっている。マウスは子供を産むとすぐにその胎盤を食べる習性があって(そういう習性を持っている哺乳類は案外多いのだ)、それをしなくなる。子供を産む前に母親は「巣」を作り、生んだ子供をそこに集めて体で子供を保護したり、授乳したりする習性もあって、そこから子供を一匹取り出して少し遠くに置くと、慌てて子供をくわえて「巣」に戻ったりする。そういう行動が出来なくなる(それを調べるのに何秒で子供を元に戻すか測ったりする)。あるいは授乳がうまく出来なくなったりする場合もある。
そんな遺伝子はいくつか見つかっていて、保育行動が全体にうまくできないネズミを作ることが出来る。こういう種類の本能的な行動が遺伝子でプログラムされているのは当然と言えば当然なのかも知れないけれど、こういう論文が出ると、誰しも子供をコインロッカーに置きざりにしてしまった人の事件を思い出したりする。ぼくは男だし子供がないから、女性が子供を産んだ時にどんな気分なのか実感としては分かりにくいし、ましてや子育てをしないネズミの心は分からないけれど、ぼくらの心を構成している何がしかの部分が遺伝子で決まっていることは確かなんだろうと思う。
心は色んなものに影響される。お腹一杯かお腹空いてるか、お金持ちか貧乏か、カフェインやニコチン、音楽や映像、今日のお天気にすら心は動かされるけれど、遺伝子で決まっていることも少なくはないと思う。ああ、もちろんその遺伝子にどのくらいの個人差があるかはまた別の問題なのだけれど。



出来心で血液型は何ですかと訊かれて「ABO型ですかHLA型ですか?」と聞き返したと言う弾さんトラックバックをしたら、トラックバックを返していただいたのでついでと言って何ですが、結構有名な話をひとつ。HLA(ヒト白血球抗原)、哺乳類全体で使う言い方をすると主要組織適合性抗原(MHC, Major Histocompatibility Complex)の遺伝子群はマウスの行動に重要な働きをしていると言われている。にわかには信じがたいようなことだがこの白血球の「血液型」は輸血や移植における相性だけではなく、ネズミの性行動における相性も決めているらしい。それは匂いを介した行動で、型が違っているマウス同士の方が交尾しやすいということが分かっている。
ええ、もちろんヒトでも同じことがあるかどうか調べてる研究者は沢山います。Tシャツ二日ぐらい着せといてから異性に匂いかがせたりとか。相性占いするならHLAの型を訊くか、匂いをかぐか、どっちが良いのか。テレビ的には後者かも知れない。
テレビじゃ匂いは放送出来ないか、されても困るけど。 ;-p