iTunes 4.9

AppleからiTunes4.9がリリースされ、予告通りPodcastingがサポートされた。Podcastという言葉はAppleiPodとbroadcastからの合成語であるとは言え、Podcastの仕組みを考えたのも、最初に始めたのもAppleというわけではない。そしてこれまでもPodcastを使う仕組みはいくつも出ていたわけだけれど、やっぱりiTunes4.9のPodcastの仕組みはよく出来ていて、使いやすい。簡単だということは大切なことで、特に継続的に配信されるものを利用しようとするならばそこは決定的なポイントなのだと思う。そういう意味で、Podcastingにとってこれは大きな一歩になると思う。実際、この二日で100万を超えるサブスクライブが行われたという(実際ぼくもいくつかサブスクライブしてみた)。

ところで、Podcastingはこれでブレイクするのかということも興味深い点。ApplePodcastをどうとらえているのか、この数日で試しにPodcastをサブスクライブした人が、何を期待して試してみたのかはすぐには分からない。けれども二つの見方が出来るとぼくは思う。

一つはblogの音声版としてのPodcast。これは仕組みとしてRSSを配信しているわけだし、乱暴な言い方をすればblogのテキストの代わりに音声情報を載せましたということなわけで、blogでテキストを配信しようと写真を配信しようと音声や音楽を配信しようと、ビデオを流そうと、仕組みとしては同じことだと思う。そういう線で考えるとLivedoorのねとらじのようなサービスになるのかも知れない。いわばプロからアマチュアまで低コストで世界中に音声を配信できる「ラジオ局が持てる」といったようなこと。これはこれで凄いことだし、夢のある話でもある。

一方、ぼくが思ったのは、これでラジオ番組を自分で録音しなくて済むようになったのだなということ。子供の頃、NHKのラジオの英会話の番組を何度毎日聞こうとして挫折したことだろう。それをテープに録音して電車の中で聞いたり、英会話が中国語やドイツ語になったり、その時期その時期で色々だったけれど、同じようなことを何度もしてきた。その度に、録音を失敗したり、さぼって録音しなくて聞けなくなったり、聞かないでテープだけがどんどんたまったり、そんなことを繰り返していたのはぼくだけではないと思う。でも考えてみればラジオを録音したりテレビを録画したりするのは、ネットワークが安くなった今日はっきり言ってナンセンスになっていたのだと思う。そんなの日本中で視聴者が録音/録画機材をそれぞれ買って、タイマーをセットしたりテープを買ったりするのなんて全く無駄なことで、放送局の側が一度だけ録音したものをネットワークを介して常時配信しておいてくれればそれで良いのである。それが出来ないのは、これまでの放送の社会的な仕組みをある日突然変えることができないからなのは明らかだし、そのあたりのことはライブドアの日本放送買収劇の時に散々議論されたことだから、ここでは述べないけれども。しかし放送のコンテンツを(それがたとえ最初はごく少しのフリーのものから始まったとしても)インターネットを介して配信する仕組みが一度出来上がってしまったら、テレビラジオを録画録音することの馬鹿馬鹿しさにみんな気がついてしまうと思うし、後戻りできなくなってしまうのではないかという予感がする。CDとiTMSの間で現在起こっていることとパラレルだ。勿論、そうなるかどうかはどれだけPodcastがブレークするかによるわけだし、そういう意味でのiPodiTunesの普及度、社会全体に対するインパクトの大きさがあるしきい値を超えているのかどうかにかかっているのだとは思うのだが。仕組みとしてはPodcastは以前から出来ていたわけだし、テレビについて同じようなことはTiVoでも考えられることなのだろう。

1年後くらいにはそういう意味での結果が出ているのではないだろうか。ぼくはAppleに期待しているし、今回のiTunes4.9は大きな一歩だと思うのだけれど、AppleがそれをiTunes5.0ではなく4.9としてこのタイミングでiPodのマイナーリビジョンと一緒に出してきたということから、この先そう遠くない時期にiTunes5.0と第5世代のiPodという形でもっと大きなインパクトを与える「何か」を期待してしまうのは考え過ぎというものだろうか。
ところで、ABCニュースのPodcastのインタビューにJobsが答えている中で面白いなと思ったのは


JT: How big do you expect podcasting to get? How do you, say, envision this technology being used in three years, four years?


SJ: Well, you know, it's amazing. I think one of the most precious resources we all have these days is free time. And that's one of the great things about an iPod is you can use it while you're doing other stuff. So you can use it while you're exercising. You can use it while you're taking the subway to work― driving to work, et cetera.
And what podcasting does is it lets me pick out those precise things I'm interested in. Whether it's a podcast on― you know, on new films that have just come out, on― on― on― on news, on music, whatever. And it automatically― every time there's a new episode of that particular show, it automatically puts it on iTunes and syncs it to my iPod. So without any work on my part whatsoever, when I'm driving to work tomorrow, the latest and greatest episodes of the podcasts that I've picked are right on my iPod, saving me a ton of time.


というくだり。iPodは我々をコンピュータの前から時間的にも空間的にもある程度自由にしてくれるし、Appleという会社をもコンピュータからある程度解放したのだと言えるんじゃないだろうか。このあたりについては、またいずれ。